JAMSには、多種多様な背景を有する研究者が所属しています。例えば、民間勤務を経て研究者に転身した会員、研究者で在外公館勤務の経験がある会員、政府系機関の調査・研究部門に所属する会員、実務に軸足を置きつつ研究活動を行う会員などです。また、特色のある地方の大学での教務や外国人留学生に対する教育など、独特の環境で教育・研究に携わっている会員も少なくありません。
こうしたJAMS会員は、各自の専門分野における研究と社会との関わりあい方について、工夫し、知恵を絞って活動しています。しかし、こうした体験は、いわゆる学術研究の成果としての発表になじまないため、個人レベルないしは少数の間での情報共有にとどまっているのが現状です。
また、JAMSの外部に目を転じてみれば、マレーシアについて実にさまざまな形でかかわる人々がいます。例えば企業や報道関係者がそうです。こうした人たちがマレーシア社会に身をおき、肌で感じた経験や記憶は、マレーシアを理解する上で非常に貴重なものですが、研究成果のように形を残すものとしては蓄積されにくいものです。JAMS社会連携フォーラムは、以上の問題意識を踏まえて、JAMS会員・非会員を問わずマレーシアに関係する人々を話題提供者やコメンテーターとして招き、参加者と経験を共有し、議論することで、JAMSの活動を社会へ還元し、研究と実務双方の発展的な協働関係を築くことを目的としています。
JAMS社会連携フォーラムの活動は会員用メーリングリストでご案内します。
■2011年度
- JAMS社会連携フォーラム
日時:2011年6月30日
会場:京都大学東京オフィス
「日本外交と平和構築~マレーシアPKO訓練センターへの講師派遣」
日本政府は、外交上の重点分野の平和構築の具体的な政策の一環として、4~6月、マレーシアのPKO訓練センターが行う軍民協力コースへ講師の派遣を行った。派遣された講師は、内閣府国際平和協力本部事務局の人道やジェンダーを専門とする国際平和協力員計3名であり、ワークショップの講師を担当した。
マレーシアは、マラヤ連邦として独立して間もない1960年のコンゴPKOから人員派遣を行ってきており、積極的にPKOに貢献してきた国の一つである。クアラルンプールにあるPKO訓練センターは、1996年に設置され、各国のPKO要員の能力向上のためのセミナーやワークショップを多数開催してきた。また、同センターの活動は、マレーシア政府が推進する南南協力という要素も併せ持っている。
現在の日本外交は、強力な外交ツールの一つである政府開発援助の予算が削減されており、選択と集中が迫られている。加えて、マレーシアのように発展が進んだ国に対しては、ODAの利用は一部の分野やスキームの適用に限られ、主要な外交カードとは言い難い状況にある。そのようななか、今回のPKO訓練センターへの人員派遣は、対マレーシア外交の文脈で新たな展開を生み出す可能性があろう。また、国際安全保障の場において、日本は直接的な軍事力の行使への参加が現状では困難であるため、平和構築分野での積極的な貢献を目指してきた。今回の政策は、同分野におけるキャパシティビルディングへの顔の見える具体的な貢献の一つとして評価することもできよう。
今回の研究会では、この政策立案にあたった外務省の担当官と現場に派遣された内閣府職員から実務経験に基づいた話題提供が行われる。そのうえで、東南アジア地域研究や人間の安全保障等を専門とする研究者の視点から、政策の分析・評価・提言を行い、最後は参加者も含めて外交実務と学術研究の発展的な連携のあり方を模索することを目的とする。
プログラム:
趣旨説明(川端隆史)
マレーシアPKO訓練センターへの講師派遣の政策的背景(外務省南東アジア第二課 清水和彦課長補佐)
現場報告(内閣府国際平和協力本部事務局 与那嶺涼子・佐藤美央国際平和協力員)
総合討論
企画:京都大学地域研究統合情報センター全国共同利用研究「ヒューマン・パワー時代の外交・安全保障の現場と地域研究」(代表:川端隆史)
主催:日本マレーシア学会(JAMS)
共催:日本マレー世界研究会(世話人:西芳実・西尾寛治)
参考資料:外務省プレスリリース
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/23/5/0527_03.html
■2009年度
- 第2回社会連携フォーラム
日時:2009年7月18日
会場:立命館アジア太平洋大学
「社会経験に根ざした研究を求めて:外交、教育、企業」
“In Search of Study Based on Social Experience: Diplomacy, Education, and Company”
人びとの営みを研究対象とする人文社会科学においては,実社会での人びとの生活と研究を完全に切り離すことはできない。したがって,研究者の社会経験が豊かであればあるほど研究の深みや広がりが増すことになる。この研究会は,その深みや広がりを個別の研究発表を通じて捉えようとする試みである。
外交,教育,企業などの実務の分野では,文化背景の違いなどにより,業務を遂行する上で自他の利益が相反する状況に置かれることが少なくない。自分の利益を守った上で相手の利益損ねない関係を築き,維持することが必要だが,そのための即効性のある理論はなく,現場で試行錯誤を重ねて蓄積された実践知が業界や分野ごとに継承されているのが現状である。
このような各業種の実践知はどのような形にすると研究者業界にも継承しうるのか。そして,それは学術研究の発展にどのような影響をもたらすのか。これらの問いについて考える上で,各業界の専門性を身につけた上で広義の研究の道を志した人びとの経験をもとに考えてみたい。
この研究会では,まず,実務の世界に主軸をおいて活動してきた人々にとっての「研究」とはどのような位置づけにあるのか,実務で培った経験を「研究」の道にどのように生かしてきたのか,また,実務の経験を研究に生かす上でどのような限界に直面し,それを研究者や実務家との連携によってどのように乗り越えてきたか(乗り越えようとしているか)などを紹介していただく。その上で,それぞれの報告者から具体的な研究テーマについて報告をしていただく。研究内容に研究者の経歴や思いが反映されるのだとすれば,実務経験豊かな人たちによる研究発表には必ず実務で培った経験が滲み出てくるはずである。討論を通じて参加者どうしの議論の方向性の違いを見つけ,そこに積極的に目を向けることを通じて,研究者の過去の経歴(特に実務家としての経験)が研究内容にどのように反映されるのかについても考えてみたい。
司会:篠崎香織(北九州市立大学外国語学部)
趣旨説明 西尾寛治(防衛大学校人文社会科学群)
報告1 「外交実務と学術研究の連続性と非連続性〜マレーシア外交にみられる公正/正義概念の研究を事例とした報告〜」 川端隆史(外務省国際情報統括官組織第二国際情報官室)
報告2 「多文化環境における教育と研究の実践報告」 井口由布(立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部)
報告3 「多文化環境における企業と経営学に関する研究と教育の実践報告」 近藤まり(立命館アジア太平洋大学国際経営部)
コメント 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター)
コメント 笹川秀夫(立命館アジア太平洋大学アジア太平洋学部)
ディスカッション
主催:京都大学地域研究統合情報センター共同研究「公共領域としての地域研究の可能性」(代表:西尾寛治)
共催:京都大学地域研究統合情報センター、APU東南アジア研究フォーラム、東南アジア学会九州地区例会、日本マレーシア研究会(JAMS)社会連携フォーラム
- 第3回社会連携フォーラム
日時:2009年11月27日
会場:東京大学駒場キャンパス
外交実務と地域研究の連携の可能性 〜発展的な協働関係を求めて〜
外交実務という分野は、他の職業と比較しても、学術研究に関係する場面が多い。具体的な事例としては、有識者会議、局や課の単位で行われる研究会、外務省員と大学教員の間の人事交流、大学院レベルの研究者求められる専門調査員などがあり、非公式な人的ネットワークも一部に形成されている。特に地域研究は、外務省の地域局や41カ国語の地域専門家との親和性がある部分が少なくない。しかし、より発展的な協働関係を形成する余地が残されていることも事実である。
例えば、地域研究者と外交実務者がそれぞれに有する情報や現場感覚をより適切に共有することができるだろう。そのためには、普段、両方の業種において当然の事柄である「暗黙知/経験知」として明示的には示されない文章や語りの作法を理解する必要がある。具体的には、学術研究者による専門的・先進的な論文には読み方があり、また、外交実務者による語りを解釈するため知識などである。それぞれの業種における「暗黙知/経験知」を理解すれば、外交実務者と学術研究者の連携はこれまで以上に円滑かつ有益に行うことができる可能性が大いに残されている。そのためには、地域研究にかかわった経験のある外交実務者や外交実務にかかわった経験のある地域研究者が、それぞれの違いを踏まえて「翻訳」することでお互いの理解を深める助けになるだろう。また、両方の業種を実際には経験していなくとも、「暗黙知/経験知」の存在を意識した形で意見を交換することで、更なる知識や経験の共有化を図ることもできよう。こうした過程を通じて、外交実務と学術研究の双方において、次なる発展のための手がかりを得るなどの相互 作用が期待できるのではないだろうか。
今回のフォーラムでは、学術研究者から大使館の専門調査員として外交実務に携わった篠崎香織氏(北九州市立大学)と職業外交官の立場から地域研究に関わってきた川端隆史氏(外務省)から、それぞれの経験を踏まえた話題提供を行う。そして、2氏の話題に対して、在外公館で委嘱調査員として外交実務に関わった山本博之氏(京都大学)をコメンテーターとして迎え、フロアからの意見も交えて、外交実務と地域研究の連携の方策について議論を深めたい。
趣旨説明 西尾寛治(防衛大学校)
発表1 篠崎香織(北九州市立大学)
発表2 川端隆史(外務省)
コメント 山本博之(京都大学)
討論
主催:日本マレーシア研究会(JAMS)社会連携ウィング
共催:京都大学地域研究統合情報センター共同利用研究「公共領域としての地域研究の可能性−東南アジア海域世界における福祉の展開を事例として」(研究代表者:西尾寛治)、日本マレー世界研究会(世話人:西芳実、西尾寛治)
■2008年度
- 第1回 (2009年2月20日)
「改革(レフォルマシ)」運動から10年――1998年「アンワール事件」を振り返る
2008年3月の総選挙で与党連合・国民戦線が「歴史的大敗」を喫し、続く8月と2009年1月の補欠選挙でも国民戦線の候補が敗れたことで、マレーシアでは政党政治史上初の政権交代そして人民協約政権の誕生の可能性が現実のものとなりつつあるかに見える。
人民協約政権の実現可能性は、イスラム刑法、ブミプトラ(マレー人優先)政策、国内治安法(ISA)、石油ロイヤルティ、外国人労働者などさまざまな要因から考える必要があるが、アンワール・イブラヒムの指導性という要因も欠かすことができない。
アンワールは、マハティール前首相のもとで副首相兼財務相を務め、マハティールの後継者と目されながらも、1998年に同性愛行為および職権濫用の容疑で逮捕され、公職を追われた経験を持つ。その後アンワールは政界から一時離れることになったが、支持者らによる「改革(レフォルマシ)」運動は人民公正党(PKR)に結実し、さらに同党を核とする野党連合・人民協約の2008年3月総選挙での大躍進をもたらした。アンワールは昨年8月の補欠選挙で政界復帰を果たし、マレーシア政治に変化をもたらすべく、人民協約政権の首相候補として政権奪取に向けたさまざまな働きかけを行っていると伝えられている。
では、アンワールの国家ビジョンは具体的にどのようなものであり、それをマレーシア国民はどのように受け止めているのか。これについて理解するため、1998年の「アンワール事件」およびそれを契機にマレーシアで巻き起こった「改革(レフォルマシ)」運動に改めて光を当ててみることには意味があるだろう。
この公開セミナーでは、三宅和久氏(共同通信社クアラルンプール支局長(当時)、現・共同通信本社外信部次長)と中村正志氏(アジア経済研究所東南アジア?研究グループ長代理)を迎えて、1998年の「アンワール事件」とその後の政治状況について話題提供していただく。三宅氏と中村氏は、いずれも「アンワール事件」直後のマレーシア社会に身を置いて取材や研究活動に従事した経歴を持っている。このセミナーは、「アンワール事件」のインパクトが社会でどのように語られ、1999年の総選挙にどのような影響を及ぼしたのかといった関心からマレーシアの現在を理解し、将来を見通す絶好の機会であるとともに、現場での取材や調査でどのような情報が得られ、それがそれぞれの専門性に応じてどのようにひとまとまりの知見に組み立てられるのかを伺うことを通じて、業種や分野の枠を越えた研究連携のあり方についても考える機会となるだろう。
趣旨説明 西尾寛治(防衛大学校)
話題提供 三宅和久(共同通信)
コメント 中村正志(アジア経済研究所)
質疑応答・討論
会場:東京大学駒場キャンパス
主催:日本マレーシア研究会(JAMS)
共催:日本マレー世界研究会(世話人:西尾寛治、西芳実)
共催:京都大学地域研究統合情報センター共同研究「公共領域としての地域研究の可能性−東南アジア海域世界における福祉の展開を事例として」(研究代表者:西尾寛治)
日本マレーシア学会(JAMS)