フォーラム 「華人社会からみた2022年マレーシア総選挙」

「華人社会からみた2022年マレーシア総選挙」 篠崎香織(北九州市立大学)

 2022年総選挙では、華人有権者が政府内に華人の代表者を確保するためにどのような選択を行うかが注目された。

 マレーシアの華人は、政府内に華人の代表を確保し続けてきた。半島部マレーシアでは独立期に、国民はマレー人、華人、インド人のいずれかの民族(bangsa)に位置付けられ、民族別の政党が連立与党を構成することにより各民族が政府に代表者を送るという仕組みが構築された。民族別政党は、統一マレー人国民組織(United Malays National Organisation: UMNO)、マレーシア華人協会(Malaysian Chinese Association: MCA)マレーシア・インド人会議(Malaysian Indian Congress: MIC)である。また1972年に連立与党に加わったマレーシア人民運動党(Parti Gerakan Rakyat Malaysia: グラカン)は多民族政党であったものの、連立与党内では華人政党に位置づけられた。

 政府内に華人の代表者を確保することは、華人にとって重要性を増しつつある。その背景の1つは、華人の人口比率の縮小である。マレーシア国籍者における華人の割合は、2000年に26.0%、2010年に24.6%、2022年に22.8%と縮小の一途をたどっており、2030年には20%未満になるとの予測もある。ブミプトラを優先する政策が実施されている中で、華人のさらなる周縁化が懸念されている。そのため連邦政府および州政府に華人の代表者を確保して、マレーシア社会のあり方を決める意思決定の場に華人の代表者を確保していくことがますます重要視されている。連邦政府の大臣・副大臣や、州政府の行政評議会の評議員に華人の代表者を確保することにも注意が払われている。

 もう1つのより差し迫った背景に、2020年3月の政権交代によって与党内の華人の代表者がほぼ皆無となる事態があった。この政権交代で国民戦線(Barisan Nasional: BN)と国民連盟(Perikatan Nasional: PN)の連立政権が発足した。同政権にはBNの構成政党であるMCAが参加していたが、MCA所属の下院議員は2人のみで、これが与党内の華人議員の総数となった。大臣・副大臣職にMCAから4人が任命され(うち2人は国王により任命された上院議員)、政府内に華人の代表者を出すことができたものの、大臣・副大臣の総数は70人であり、華人の大臣・副大臣の割合は華人の人口比率に遥かに及ばないものとなった。

 しかし2020年3月の政権交代で、華人の代表者の激減を招いたのは、ほかならぬ華人自身だったという側面もあった。華人が投じた票がこうした状況を作り出してきた。

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2023年1月30日公開

日本マレーシア学会(JAMS)


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